印象に残った作品②
2009年09月17日 大地の芸術祭
実は今回の新作の中で、私が個人的に一番好きだった作品が、 意外や意外(?)、この「上鰕池名画館」(大成哲雄+竹内美紀子)でした。当初、夜間工房のツアーでは、近くまでは行ったのですが、これは「どうかな・・・?」と思って素通りしてしまいました。しかし、後日寄ってみたら、とても良かったのです。(ツアー参加の方、すみません)
はじめは、よくある名画のパロディー写真の里山版かと勝手に想像していたのですが、実際に見てみると、それだけではありませんでした。作家達は、実に丹念に上鰕池の集落に入り込み、暮らしの機微や風景の美しさを読み取り、その結果、集落全員の協力を得て完成させることができた、まさに地元に寄り添うことで出来上がった作品だったのです。
上の写真はチラシにも使われていた「フェルメール」ですが、これには文章が添えられていて、このお母さんは集落みんなが楽しみにしている年に一度の祭りの準備をしているところであるということが分かります。決して、形だけ名画を真似たわけではないのです。
もう一点の写真は「ミレー」ですが、これは落穂拾いではなく、よくみるとワラビ取りで、本当にワラビが生えている時期を選んで撮影されたものです。無論、春のワラビ取りが、深い雪に閉ざされるこの地方の人たちの大きな楽しみであることも、文章で説明されています。このほか、セザンヌの「ゲーム遊びをする男たち」は、この地方で盛んな大相撲の予想する男たちに代わり、マネの笛を吹く少年は集落の吹奏楽部の女の子にとって代わられ、といった具合で、この地方の暮らしについて少しでも知っている者が見れば、ニヤリとさせられる作品ばかりです。(ムンクの「叫び」もありました)
このほか、シャルダン(又はモランディだったか)の瓶の静物画のパロディとして、一升瓶に入ったマムシ酒とお猪口のある作品もありました。私も蓬平でまむし酒をいただいたことがあったので、「そうそう、この地方のお父さんはこれが好きなんだよな」と思って、文章を読み進めると、このお猪口の持ち主だったマムシ取りの名人は、ある日山に入ったきり、そのまま帰らぬ人となってしまったことが書き添えられてあり、しんみりしてしまいました。
全体的にはユーモアのある作品群ですが、それだけではない山深い村の生活感情も織り込まれており、作家の暖かい目線を感じます。また作品のどれもが高い撮影技術にも支えられ、あのミレーがバルビゾン村で感じたような、農村生活の崇高さが表現できているようにも感じられました。
実は私も何度も蓬平に通っている間、似たようなことを考えていました。下の写真は、早春の繭の家の裏を撮影したもの(撮影:古巻)で、畑の上に積もった3mの雪の上にお隣さんが炭を撒いているところです。こうすると雪が早く解け、肥料にもなるとのことですが、この光景などもミレーの「種まく人」のような崇高さを感じませんか。
話は少し脱線しましたが、大成さん・竹内さんには次回もこのテーマで展開していただき、ぜひとも写真集の出版まで頑張ってもらいたいものです。
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夜間工房のコカです。
僕もてっきりパロディかと思っていたのですが、全然違うようですね。
名画の構図は出口ではなく、入り口にすぎないということですか。
またバビルゾン派の時代のことは想像するしかありませんが、こちらは現在なので、より現実的に農村生活の崇高さが肌で感じられ、いいと思います。
名画と呼ばれるものを、名画と呼ばれているだけにあまりよく思っていない人が見ても、その構図の素晴らしさを再認識するのではないかとさえ思います。
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古巻です。
まさに「入口」という言葉がぴったりですね。
そこから新たな物語が紡ぎ出されています。