「里山」を舞台とした大地の芸術祭に対して、「里海」を舞台として同様の取り組みをしているのが、言わずと知れた直島です。
むしろ直島の方が早くからの取り組みとなるでしょう。
空き家を利用した家プロジェクトの最初の作品「角屋」は1998年から始動しています。
実は、私も「繭の家」が動き出す前の2004年、家プロジェクトを見学しに直島を一度訪れています。
そして今回、その直島全体で5年ぶりに「スタンダード展」の第2回が開催されていると聞き、日帰りではありますが、見てきました。
とてもよい展覧会ですので、ここで紹介します。
「アートの日常化」がテーマの今展では、島内の至る所に作品が展開されていますが、中心となるのは古い街並みが残る本村地区です。
まずは圧巻だったのは、大竹伸朗の家作品です。
かつて歯医者だった家の1・2階全てが巨大な大竹作品(=あのスクラップブックのでかいやつ)に仕上がっています。
写真の細かいところを観察すれば、この作品の「大竹伸朗度」がよく分かると思います。
この外装のテクスチャーだけでも涙ものですが、室内もまぎれもなく大竹ペインティングが施され、本当にもう脱帽するしかありません。
室内の吹き抜けにはパチンコ屋の屋上にあったものを譲り受けたという自由の女神がどどーんと。
とにかく有無を言わさない作品でした。
光る仕掛けも施されているようで、夜見たかったです。
大竹伸朗と並んで今回の目玉とも言えるのが、日本画家の千住博の「滝」作品が展示されている「石橋」という家作品です。
和室のカラーの滝の連作もよかったですが、素晴らしかったのは土蔵の空間全体を使った大作です。
作品の質・量とも文句なしです。
床はなんと漆塗りで、滝を水面のように映しています。
まるで滝の轟音が聞こえてくるような迫力ある作品でした。
丸山応挙の大乗寺の作品もそうですが、ここでは伝統的な日本の絵画がインスタレーションとしての空間性を獲得しています。
千住氏の場合も、その辺の空間感覚は障壁画などを手がけているだけあって流石だと思いました。
この作品と大竹氏の作品は、家自体も建築家が入って、ものすごくきちんと整備されており、おそらく恒久作品として残されると思われます。
本村地区の住宅の玄関先には、加納容子によるのれん作品があちこちに掛けられていました。
これは5年前のスタンダード展の時に、アーティストが各戸の屋号にちなんで作成したものです。
私が前回この地区を訪れたのは2年半前でしたが、カフェやショップ、食堂もずいぶん増えているし、おじいさんやおばあさんが親しげに話しかけてくれたりと、「アートはよくわからない」と言われながらも、じんわりと地域に浸透しつつあるように思えました。
確か前回は農協の倉庫か何かだった空間が、妹島和世+西沢立衛/SANAAによって整備され、「本村ラウンジ&アーカイヴ」という名のスペースとして整備されていました。
ここはこの地区のインフォメーションセンター兼ショップというところです。
外国人の来場者もたくさん来ていました。
同じスペースの奥のほう。
とてもクールな空間です。
ちなみに直島の玄関口である「海の駅」ターミナルも彼らの設計です。
地区の信仰の中心である直島八幡神社の本殿には、彫刻家・上原三千代の猫の作品が。
ちなみにこの作品は、伝統的な仏像制作である木心乾漆という技法が用いられています。
猫作品は、全部で3体ありました。
本村地区以外にも、作品は点在していました。
島の北部は、三菱マテリアルの工場で占められているのですが、そこに至る道の途中の峠には、かつて同社の厚生施設としての床屋跡を利用して、三宅信太郎が「魚島潮坂蛸峠」という妙ちきりんな作品を展開してました。
何百という小さな蛸のぬいぐるみと、ちゃぶ台で野球のラジオ中継を聞きながらくつろぐ親父蛸の着ぐるみ。
意味不明で、ありえない島の歴史をねつ造しているみたいでしたが、クールな作品が多い今展の中では、どこか人の気持ちを弛緩させる心地よさがあってよかったです。
一緒に行った子ども達は、たいそう気に入って、家に帰ってから蛸のぬいぐるみを作りました。
今回は、日帰りという強行軍でしたが、ほぼ全ての作品は見ることは出来ました。
ここでは全部紹介できませんでしたが、島を散策、あるいはドライブしながらの作品鑑賞は、よい天候に恵まれたこともあって、気持ちよいものでした。
以前に見た作品もいくつか再訪しましたが、中でもジェームス・タレルの「南寺」は、いつ見ても刺激的で、全然飽きが来ないよい作品でした。
また、大地の芸術祭のこへび隊のように、若い学生ボランティアが各作品に配置され、さわやかに作品の説明をして下さったのも、よい印象を与えてくれました。
(彼ら彼女たちは、この島で合宿しているようです)
直島は関西からは車で3-4時間あれば行ける場所なので、大地の芸術祭に行けなかったという方は、是非見逃すことのないように。
とてもお勧めです。
会期は4月15日まで。入場料2000円、こども無料。
地中美術館もまわるのであれば、もちろん1泊することがベストではありますが・・・。