印象に残った作品⑦
2009年09月23日 大地の芸術祭
瀧澤潔の「津南のためのインスタレーション-つながり-」も見応えのある力作でした。特に会場2階のテグスの集積による白い空間は迫力がありました。
会場は津南町中心部のかつての機織り工場跡地です。工場跡地であることは、かつてここにあったひとつの産業が失われたことに他ならないので、空家同様、わびしさや悲しさを醸し出すものですが、作者はこの奥行き40mもの大空間を、雪解けの歓びを表現するという「明」と「暗」をテーマにしたインスタレーション空間に変容させました。
まず1階ですが、ここは「暗」の部です。暗闇の中の長細い空間に古着のTシャツが照らし出され浮かんでいます。闇に閉ざされた空間にうごめく人の幻影のようにも見えます。一番奥のつきあたりには無数のワイヤーハンガーがつるされており、吹き抜け空間を経て上の階へとハンガーの連なりが続いていました。
2階はコンセプトのとおり、光に満ちた「明」の空間でした。天井は、真っ白なふさふさした毛のようなものに覆われ、窓の自然を受けて光り輝いています。これはナイロン製のテグスの集積です。これほどの面積の天井を埋め尽くすには、一体何kmものテグスが使用されているのか見当もつきませんが、本来、1本の線であるテグスの集積が広大な面となっていることが爽快でした。越後妻有のトリエンナーレらしい、スケールの大きなインスタレーションです。1階からの吹き抜けからは例のハンガーが進出しており(写真奥の緑の壁)、2つの空間のつながりが表現されているようでした。
かつて機織り工場だった場所との関連性については、殊更には言及されていないようでしたが、「場の記憶」をテーマにした空家作品が多々ある中では、あえて記憶よりも、空間のスケールを生かし切る方法論をとられたのではないかと思いました。かねてから指摘されているように、大地の芸術祭のマンネリ化を防ぐためには、このようなスタンスも大いにあり、でしょう。
この瀧澤さんという作家さんとは残念ながらお会いしたことはありませんが、結構早い時期からこの作品の専用チラシが各所に配置されているのを見かけており、また会場には過去作品資料、評論家の寄稿入りの資料が配置されるなど、「個展」としてのプレゼンも準備万端整っていました。そして、このおびただしい作業量。若い作家さんがこの作品にかける情熱と気合いをひしひしと感じ、これまた爽快でした。これからの活躍を期待しています。