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印象に残った作品⑧

2009年09月24日 大地の芸術祭

 本間純の2作品が設置されているのは、芸術祭エリアでも最も奥地の津南町秋山郷の結東集落です。これまでも行きたいと思いつつ、なかなか行けずにおりましたが、今回の夜間工房ツアーで秋山郷の萌木の里に宿泊したので、ようやく拝見できました。

 秋山郷は、長野県境にまたがる12の集落から構成される地域で、平家落人伝説の里として古い生活様式や風俗などが残っていることから、よく秘境として紹介される場所です。2005年の大雪の際には唯一の道である国道405号線が通行止めになり、雪で孤立したことは記憶にも新しいです。
 そんな集落で、本間純は「100年前」という作品を制作しました。
 作品の設置場所は廃校を再生した「かたくりの宿」という施設で、本作は体育館の内外に設置されたサウンドインスタレーションでした。グランドには屋外スピーカーがセットされ、そこから時折オオカミの遠吠えが聞こえます。これは、100年前であればこの地方にもきっとオオカミがいただろうと考えた作者が本物のオオカミの鳴き声を入手したもので、これが鳴り渡ると集落中の犬が反応してワンワン吠えるそうです。体育館の中の作品は、だだっ広い天井の梁の付近に折り紙(?)による家などの造形物がひっそりと配置され、室内の各所から生活の音や歌声などが聞こえてきます。ここで表現されているのは、この土地に潜む何かの気配のようです。
 音声の中で一番印象的だったのは、老人が唄う民謡でした。これは秋山郷に伝わる「ラス踊り」という唄で、作家が実際に集落の古老を訪ねて録音したものだということでした。遠くの山の奥から、あるいは遙かな過去から聞こえてくるようなこの歌声が、しばらく耳にこびりついて離れませんでした。少なくとも旅行者であった私には、目には見えないはずのこの地域の地霊(ゲニウス・ロキ)を垣間見たような気になりました。そういう意味でこの試みは、成功していたのではないでしょうか。

同じ敷地内には、2003年作品「Melting Wall」もあります。これもいい作品でした。3コースしかないこぢんまりとしたプールも可愛かったですが、このプールにまつわる様々な記憶が、水の揺らぎとともにこのテレビ画面のような矩形に映し出されているような印象を持ちました。
 この作品を見に来たグループの多くは、お約束という感じで、水の壁の向こう側にいる仲間の剽軽なポーズを記念撮影します。それはある意味、童心の発露であり、かつてこのプールを歓声で満たしていた子供たちの幻影を映すビジョンなのかも知れません。

以上、2009年に見学した10作品を8回にわたって紹介しましたが、拙いレビューもこれにて終了です。
おつきあい下さいました皆様、どうもありがとうございました。