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オモヒデ

・いつも遠い目をしていた。

ギックリの亡夫。

・マユビト一の記憶力を持っていた。

・つきあいはじめた日は勿論のこと、初めてデートした日や、初めてハイキングに行った日や、おみくじの結果や、誕生日の月の形や、プロポーズの日に食べたものや、結婚4周年に行った場所とか、細かく覚えていた。相手が忘れていたら不機嫌になるのでかなり面倒くさい性格だといえる。

・細かいことを記憶していることが、愛情の証しになると信じており、それが単なる自信のなさの裏返しであることには気付いていなかった。また、止むことのない不安が、記憶力をさらに強化していた。

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アゲアシと仲が悪かった。会えばアゲアシの言うことに、1つ1つ反論していた。

・例えば「円形脱毛症を俗に『10円ハゲ』と呼ぶことはあるかもしれませんが、全くどこも脱毛していないかたまでハゲ頭と呼ぶのは、あまりにも暴論であると言わざるを得ません」とか。

・「言い間違いと、間違った日本語とは微妙に異なります。ご自分にご都合のいいように論をねじ曲げられないほうがよろしいかと存じます」とか。

・「幽霊さんがいらっしゃらないという証拠がない場合は、いらっしゃるとも、いらっしゃらないとも言えないというのが正しいおっしゃり方かと存じます」とか。

・「お嫌いでなければ、お好きってことにはなりません。お好きでもお嫌いでもないというのもあるのではないでしょうか。わたくしにはございます」とか。

・「ご自分がお嫌ではないことは、他のかたにしてもよろしいということにはなりません。例えばみんなで騒ぐのが好きなかたもいれば、1人で静かに過ごすのが好きなかたもいらっしゃります。猫ちゃんは動物ですが、だからといって猫ちゃんでなければ動物ではないということにはなりません。それと同じです」とか。

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・役に立たない民芸品を集めるのが趣味だった。「民芸品は、思い出を呼び覚ます記号ですから、実用品である必要も、芸術品である必要もございません。親しみやすさがあることと、現地にお金が落ちることが重要でございます」と言っていた。

アゲアシが亡くなった後、身寄りのないバタアシの面倒をみていた。この頃から、いっそう遠い目をするようになった。

・弱いくせに、妖怪ゴーヤイモリからバタアシをかばい、ゴーヤイモリに食われて亡くなった。

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